12月5日のyahooのトップニュースに水耕栽培関連の記事が掲載されました。
先週に引き続き水耕栽培・植物工場がyahooのTOPで紹介されるのはなんと3回目で、最近ずいぶん集中しています。
yahooのトップページは毎日数千万人の目に触れる日本のネットでも最大規模の露出先で、テレビと同等以上の絶大な影響力を誇ります。
しかし残念ながら今回のニュースはあまりよくないものでした。
本サイトにたどり着けるくらいアンテナの高い方はすでにご存知かもしれませんが、元記事はこちらです。
本サイトの愛読者がこのような話に引っ掛かるとは思いませんが、念のため注意喚起しておきます。
経済面を検討
初期投資が3億円必要という時点で問題外です(しかも全部自力で設置した場合とのことです)。
自力設置であれば、初期投資は300万円もあれば十分な規模の試験プラントとサンプル作物を用意できます。
うまくやれば150万円でも行けるでしょう。
それが真に必要な初期投資です。その先のお金はもはや初期投資ではなく、拡大投資です。
そしてこの数字が本当であれば(つまり小規模栽培でのエビデンスと販売先の単価・買取期間を記載済みの契約書があれば)
銀行だろうとVC(ベンチャーキャピタル)だろうと3億円の調達は可能です。
植物工場の成否は技術ではなく販売に大きく偏重しているため特許はわりとどうでもいいです。
特許出願中の権原は銀行借入時の担保にはなるかもしれませんが。
販売面はすでにクリアしていて、利回りは80%出て、3億円の調達でいいならあえて人からお金を集める必要は一切ありません。
そんなことしても面倒なだけで、労力を取られて時間がなくなって利益も激減して大損するだけです。
3億円の投資で利回り84%ということは、年に2億5200万円の利益(粗利?経常利益?)が出るということですから、
なんら問題なくマザーズに上場できるレベルの収益です。なので銀行だけでなくVCからも調達が可能です。
この数字が出るなら絶対に銀行かVCから調達するべきです。
また、年に2.5億円の利益が出るのであれば、上場すれば25億円~40億円程度の時価総額がつくと思われます。
それなのに人から投資を集めて運営するなんて選択は、お金をドブに捨てようとしているのとほとんど同じです。
おそらく銀行やVCを納得させられないような欠陥、穴がなにかあるのでしょう。
もしも本当にこの数字が実現できるとして、
3億円の投資で利回り84%=年に2億5200万円の利益を出すため必要な売上はどれくらいになるでしょうか。
この利益を出すためには仮に売上利益率が90%としても2億8000万円の売上が必要になります。
月20トン販売とのことなので、年240トン販売とすると、2億8000万円の売上のためには、キロ単価は1400円。
作物は後述しますが、この作物でしかも国産の生原料ということを考慮するとかなり安めです。
仮に売上利益率が50%なら、必要な年商は5億円でキロ単価は2080円。まだまだ安めな気がします。
加工用原料ということで安めなのかもしれませんが、国産の生原料なのでキロ1万円でも行ける気がします。
キロ単価は2万円で、利益率が5%という計画かもしれません。
あるいは特殊な栽培方法をするとのことなので、従来品よりも有効成分が少なく、販売価格が安いのかもしれません。
ともあれ、にんにくスプラウトみたいな特別なものを作って販路が確保できるのであれば植物工場でも粗利50%は実現しますし、
単価設定は問題なさそうです。
ただ…作物はなんと鬼門の根菜です。
高額な初期投資に加えて銀行やVC以外の資金調達を求めて投資を募り、作物は水耕の根菜。
そのうえ根菜の中でも最も生育が遅い薬草です。
雲行きがさらに怪しくなってきました。収量面を検討してみましょう。
収量と生産規模を検討
安定生産で月20トンとのことなので、年240トンという莫大な収量です。
しかも大量にとれる葉物野菜ではなく、収量に乏しい高麗人参(正式名称はオタネニンジン)の収量です。
植物工場で根菜を作ろうという時点で要注意ですが、それ以上に計画収量がとんでもないことになっています。
特殊技術により、本来100日かかる所を25日で完成するので、利回りが早くなる
という話が出ていますが、高麗人参は本来100日どころではありません。
高麗人参の収穫には早くても4年、普通に作ると6~7年かかります。
下手な果樹よりも時間を要する超長期作物です。
つまり高麗人参の栽培期間は本来2200日程度ということです。
高麗人参を100日栽培した程度では主根はまだ鉛筆よりずっと細く、とても商品にはなりません。
となると、「本来100日」というのはリーフレタスの話でしょうか。
しかしリーフレタスを定植後25日程度で収穫するのは植物工場では当たり前のことで、特殊な方法は必要ありません。
そもそも高麗人参を売る計画なのにリーフレタスの数字を出してどうするんでしょう?
「本来2200日かかるところを25日で収穫する」だったら話の整合性が取れますが、今度は数字があまりにも異常すぎます。
まさかの88倍速になってしまいます。
また、環境が生育速度や収量に即座に反映される葉物と違って根菜の促成栽培は容易ではありません。
仮に高麗人参の生育速度が5倍以上になったところで栽培期間は400日は必要です。
これを毎月出荷するとなると、400日÷30日なので、少なくとも13区画に分けて生産する必要があります。
そのうえ工場を立ち上げてから最初の出荷まで400日もかかります。その間の運用費は?
植物工場は栽培期間が短い作物に特化することでギリギリどうにかなっています。
なので、根菜なんて栽培期間の長いものをやると、あり得ないほどリスクが膨らんでしまいます。
なにより、収量が異常です。
高麗人参の収量に関するこちらの報告ご参照ください。
従来土耕の場合ですが、6年栽培したもので1本平均20g程度、大きいものでもようやく100gくらいです。
定植間隔は20cm。パネル1枚で15本程度。
百歩譲って植物工場だから収量は全て100gにそろうと言い張るとしても、パネル1枚あたりの収量は1.5kg程度です。
月に20トン生産するためには13300枚のパネルが必要です。そしてこれは1か月分の量です。
毎月出荷するためにはこれが13ライン必要なので60×90cmの水耕パネルが17万枚必要になります。
大量生産ということで1枚500円の激安でパネルを用意できるとしても、パネルだけで8500万円もかかります。
ニンジンは大量の光を必要とする陽性植物ですが、
高麗人参はセリ目セリ科のニンジンとは全く違う系統の植物(セリ目ウコギ科)で、陰性植物です。
陰性植物という点だけ見れば植物工場との相性はいいです。
ちなみに目が同じでも科が違うとクマ(イヌ亜目クマ科)とアザラシ(イヌ亜目アザラシ科)くらいの違いが出ます。
光源を1/3に減らせるとのことなので、本来はパネル1枚に6本必要として、2本でいいものとします(これは相当暗いです)。
必要なLEDの本数は34万本。仮に1本400円で調達できたとしても光源だけで1億3600万円になります。
暗くすると生育は遅くなるはずなので、暗くして早くなるというのは不思議です。
そして17万枚のパネルを収めるのに必要なラックのコストは
ちゃんとしたラックを使うとパネル1枚あたり約700円。17万枚で約1.2億円。
本圃分のパネルとLEDとラックだけで3億4000万円になってしまいました。
水耕ベッドも育苗システムも液肥系も空調系も設置人件費も配線系統もまだ計上していないのに。
この規模となると、自作したところで材料原価だけで5億~6億円は必要そうです。外注すれば20億円以上かかるでしょうね。
そのうえ根菜なので養液部分にそれなりの深さが必要となるため、そうそう多段にはできません。
かなり無理しても6段が限界でしょう。
17万枚のパネルを6段で埋めるにはなんと平置き換算で28,000枚分のスペース=15,300㎡もの建物が必要です。
これは通路を一切考慮しない場合です。
床の半分は通路なので、必要な床面積は30,600㎡(9000坪)。
いっそ建物まで自力で作って、坪10万円の激安価格で建てられるとしても建物だけで9億円します。
ちなみに東京ドームの床面積は47,000㎡です。
こんな広い建物が用意できるなら植物工場ではなくライブ会場かアウトレットモールにでも使ったほうがいいと思います。
建物がタダでも3億円の投資じゃ材料すら揃えられない規模です。
やっぱりピックアップした数字だけ見てもダメで、
エクセルで作られた、ちゃんと減価償却費や雇用労賃まで含み、全項目の算出根拠が書かれたPLの表を見る必要があります。
逆にその形だとそう簡単には誤魔化しが効かず、詳しい人が見ればすぐに看破できますし、
どこにリスクや穴があるのかも探りやすいです。
生産システムのPLはたいてい販売価格に問題がありますが、本件は収量や生産期間、生産規模がおかしいです。
植物工場の風評が落ちそうなニュースに落胆
実際に募集が始まる前に注意喚起の文脈でニュースになったことはむしろ好ましいことかもしれませんが、
それでも信じる人は信じてしまいます。都合の悪いことは目も耳もふさいで、夢と希望をもって突っ込んでしまいます。
なので、ニュースでかえって注目されて問題が大きくなるかもしれません。
なにより、植物工場がらみのネガティブなニュースなので落胆しています。植物工場のイメージがまた悪くなりそうです。
先日、「これからの植物工場はレタス以外の作物を作るべきだ」という記事を書きましたが、
決してこういう方向(投資話を作る)ではありません。
こういった方向でトラブルが起こると、植物工場はさらに後退してしまうでしょう。
薬草・生薬は数少ない植物工場の有望作物で、私も5年以上前から事業化の研究をしています。
また、国内でも事業化に向けて多くの研究が取り組まれています。
なので、目の付け所自体はいいと思います。成功する方法もあるはずです。
ただ、水耕栽培や植物工場がおかしな投資話に使われて問題が起こると、いま頑張ってる人たちにまで悪影響が出てしまいます。
この件が水耕栽培や植物工場の評判を下げないことを願っています。
私にはyoutuberのような影響力はありませんし、本サイトはたかが月間数千PV程度の弱小サイトですが、
せめて本サイトの読者の方々にはお伝えしなければと思い、落胆しながらも注意喚起のため本稿を至急執筆しました。
情報が限られているので嘘だと断定はできませんが、出てくる数字がいろいろおかしいので、くれぐれもお気を付けください。
ある程度農業や水耕栽培の知識がないと判断しにくいでしょうし、
本件を紹介したyoutuberの方にも悪気はないのかもしれませんが、
影響力のある方は一歩間違えば加害者になってしまうので、
こういう話を紹介するのであれば弁護士(間違ったときに対応するため)だけでは不十分だと思います。
弁護士だけでなく、技術デューデリができる科学に精通した相談役(間違いを防ぐため)をつけたほうがいいでしょうね。
インターネットの普及と回線の高速化に比例して、情報の流通量がいまだに増え続けています。
周知宣伝する側、売る側だけではなく、お金を出す側、買う側にも
技術や数字の妥当性を相談できる人が必要な世の中になるかもしれません。

