■露地で作れる作物は植物工場には向かない
わざわざ高額な設備投資を行って露地でも作れる野菜を作ることがそもそもの間違いではないでしょうか。
あえて植物工場をやるなら、最初から露地では作れないものや高価なものを作るべきだと思います。
今回は筆者がこれこそ植物工場で作るべきだと考えていて、かつ2018年4月30日現在ではまだ誰も植物工場では取り組んでいない(筆者調べ)、とっておきの作物を紹介します。記事タイトルの写真がその作物「芽ネギ」です。
■高級食材「芽ネギ」
芽ネギは寿司種や日本料理に使われる超高級食材です。その価格は1キロ当たりの卸価格が15,000円以上と、なんと和牛よりも高いです。雨が当たると腐ってしまうため露地で作るのは困難で、ハウスが必須です。
しかし、ハウス土耕の場合、尋常ならざる手間と人件費がかかるため量産が困難です。
ハウス水耕によって芽ネギの量産が可能になりましたが、土耕ほどではないにせよ多くの労力と人件費、設備費がかかります。このため芽ネギの価格はとても高く、回転寿司で使うのは難しくなっています。稀に扱っている回転ずしもありますが、最も規模の多い大手回転ずしチェーンでは芽ネギを食べられません。
詳しい人はご存知だと思いますが、回転ずしの寿司種の原価は45%程度が限界とされています。
つまり、1皿=2貫分の寿司種を45円未満で調達しないといけないということです。この価格で芽ネギを卸すことは不可能です。
しかし、超低コスト植物工場を自作し、かつ特殊な栽培方法を使えば芽ネギ生産の設備費と人件費を大幅に削減することが可能です。
■芽ネギ生産のメリット
植物工場で芽ネギを生産する場合、レタスとは比べ物にならないくらい有利な要素が多数発生します。
1.芽ネギは狭い面積で大量に生産が可能です。
2.レタスよりも弱い光で生育します。
3.光照射期間は2週間でよく、短期間で生産できます。
4.レタスの栽培では光源を1日16時間点灯しますが、芽ネギは12時間の点灯で十分です。
これらのメリットから、1作に投じる電気代が大幅に減少します。
さらに、1作の栽培期間が短く、大きく育てる必要もないため肥料と水はわずかで済みます。
サイズが小さいため、小さな箱でも大量に配送でき、送料や箱代を抑えられます。
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これだけ考えてみて、いかにも収益性が期待できそうだと考えられます。
そこで、どれだけ有利になるか試算しました。
芽ネギ生産の試算などマニアック過ぎてまだ世に出ていません。
その具体的な数字をお見せします。
■原価比較
超低コスト植物工場を自作してレタスを作った場合と芽ネギを作った場合を比較します。
参考までに、従来型の高額な植物工場でレタスを作った場合の数字も掲載します。
ご覧のように、超低コスト同士で比べても電気代が大幅に減り、利益率も向上しています。
もう一つ重要なのは価格です。100gしかないレタス1個の卸価格が100円というのはとても高く、この価格で売るのは非常に苦労します。露地のリーフレタスは300gですが、季節によって卸価格は1個100円以下で、50円を切ることもあります。レタスを作ってしまうと、そういうものと戦わなければいけないのです。普通に考えたら勝ち目がありません。圧倒的な営業力があったり、自分だけの特別な販路があったりと、特殊な人でないと勝てないでしょう。最初からそんなハードルが高い作物をわざわざ選ぶ必要はありません。
一方、芽ネギはこれまでになく廉価(従来、3皿分の芽ネギの卸価格は300円程度です)で販売可能となり、大手の回転ずしでも使用可能な価格で卸売してもなお収益性が維持されています。
ただ、1個あたりの費用や利益を書いてもイメージできないと思います。
そこで、コンテナ型植物工場で生産した場合についても試算しました。
■コンテナ型植物工場での売上と利益を比較
40フィートのコンテナ型植物工場を自作してレタスと芽ネギを生産した場合の売上と利益を比較します。
試算した結果、もはや植物工場とは思えないくらいの高い収益性が期待できます。
但し、植物工場を自作して、特殊な栽培方法で人件費を抑えた場合です。
従来のコンテナ型植物工場は極めて割高であるため、決して利益を出すことはできません。
一方、超低コスト植物工場ではレタスでも収益が見込めます。但し、そのためには1個100gあるかないかの超小株レタスを100円で売り続けるという困難な営業を乗り越える必要があります。しかも1日に55株しか出荷できません。たったこれだけの生産量で、1個100円という販売側にとって非常に有利な価格での契約を獲得するのはさらに難しいことと思われます。
一方、芽ネギは1日に800皿分も作れます。1店舗で芽ネギがどれだけ出るのか全く予想できませんが、仮に1店舗あたり40皿出るとすれば、20店舗分もの芽ネギを作れることになります。
また、投資効率のよさにも目を見張るものがあります。試算上とはいえ、370万円の設備投資で1200万円の売り上げ、粗利益も370万円なので、なんと1年で初期投資を回収できる計算になります。これまでの植物工場は試算でも20年以上かかります。実際に開始すると予期せぬことが日々起こり、投資回収にはその何倍もの年月かかります。従って、計算上の投資回収期間は短めである必要があるでしょう。
何より有望なのは、小規模でも採算性が期待できることです。
つまり、一気に1億円単位で投資するリスクを踏む必要がなく、1カ所あたり400万円程度の投資で生産拠点を細かく全国に分散することができるのです。全国に展開している回転ずしチェーンとの相性が最高だと思いませんか?こんなやりかたはレタスでは絶対にできません。クリーニング取次店のように小さく各地に分散できるのです。
一度レタスから離れましょう。もっと適した作物がきっとあるはず。
■回転寿司で芽ネギが食べられる世界に
植物工場での芽ネギ生産が成功すれば、回転ずしでも芽ネギが食べられるようになるでしょう。
植物工場で寿司種を作る。これこそ日本にしかできない植物工場の勝ち方です。
また、芽ネギ以外にも紫芽や紅蓼という寿司や和食と相性のいい作物があります。
このようなスプラウト(=光を当てないで育てる)とは異なる発芽植物、「芽もの」は植物工場の救世主になるかもしれません。
しかし、植物工場を救っても仕方がありません。技術にあわせて人が何かをするのは本末転倒で、需要者にとってメリットをもたらせない技術を追求しても本筋からどんどん離れてしまいます。
その点で植物工場での芽ネギ生産はまさに回転ずしチェーンにメリットを提案できるものだと思います。
これまで高すぎて回転ずしでは使うことができなかった芽ネギが回転ずしでも食べられるようになる。
もしもこの挑戦が成功すれば、植物工場が食文化を発展させた最初の事例になるでしょう。
■補足
あまり知られていませんが、寿司「ネタ」はもともと職人用語の逆さ言葉であり、正式名称は寿司「ダネ」です。
また、寿司の握りを1貫2貫と数えるのは必ずしも正しくなく、1個2個というほうが適切なようです。しかし慣例化しているので貫という数え方が正しくなりつつあるのかもしれません。
ついでに言うと、勘定を依頼する「お愛想」とはもともと店側が「あのお客さん、当店に愛想を尽かしてお帰りだよ=勘定して」という意味で使う言葉であり、客側が使うべき言葉ではありません(「お前の店に愛想が尽きたから帰る」という意味になってしまう)。言葉遣いや礼儀にうるさい人がいたら普通に怒られます。「お会計をお願いします」が無難です。

