はじめに
今回は最も安い植物工場の作り方についてご紹介します。
いまのところ育苗の資材までの紹介しかしていませんでしたが、ようやく本圃(育苗工程で作った苗を植え替えて育てる場所)部分についても書き始めます。
水耕栽培の手順はこのようになります。
育苗システムについてはこちらの記事をご覧ください。
今回ご紹介するシステムは小規模のユニット単体なので、スペースがあれば家庭や空き部屋などちょっとしたスペースにも置けます。
乱暴に言えば、植物工場の規模拡大は基本となる栽培ユニットを縦横に連結して増やしていくだけです。
もちろん規模拡大に伴って空調のケア(温度と通気の管理)は必要になりますが、コアになるのは栽培ユニットです。
但し電気代は覚悟してください。また、転倒防止策も必ず行ってください。
植物工場・水耕栽培での栽培の手順
まずは培地に種をまいて育苗部分で苗を育てます。
育てた苗は本圃(ほんぽ)部分に苗を植え替えて最後まで育てます。
今回はこの本圃部分に該当する施設の作り方です。
しかし、基本は育苗と同じ作りです。育苗のほうが必要な光の量が多いことくらいの違いです。
大規模栽培では液肥の循環機構が必須になりますが、とりあえず小規模で栽培をするくらいなら非循環でもいいと思います。
今回は入門として、最もシンプルな非循環型の多段栽培棚の作り方をご紹介します。
非循環ではトレイが別々に分かれてしまうため、トレイごとに水やりをする必要があるのが面倒です。
一方、トレイを取り出して丸ごと洗えるメリットがあります。
循環式だと配管系統が固定されてしまうので、分解掃除は容易ではありません。
最もシンプルな非循環式でいいので、とりあえず実際にLED水耕をやってみることで本当にいろんなことがわかってきます。
0から1に進むこの段階が一番大変で、ここがクリアできれば1を100にするのはそこまで難しくありません。
極論すれば、基本ユニットのコピー&ペーストで拡大できてしまうので。
組み立てが完成するとこのようになります。
ただし、これはちょっと古いタイプなので蛍光灯具にセットしてLEDを固定していますが、現在では灯具は不要です。
蛍光灯を直接つるしてソケットをつなげば十分です。
この下にトレイを置いてそこに液肥をためて栽培します。それが最もシンプルな構成です。小規模なら循環はいりません。循環については後述します。
植物が生えているとこのような状態になります。いくら実験とはいえちょっと生やし過ぎです…。
ちなみにこんなに密植して栽培すると形は悪くなってしまいます。一方、量は多くカット収穫すればベビーリーフとして食べられます。
大規模で栽培する場合は密植すると過湿でカビたりするので送気に気を使う必要があります。
ラック選びについて
写真のものは4段のメタルラックで、ラックの大きさは幅121cm、高さは180cm、奥行きは46cmです。
しかし、これよりも幅151cm、高さ180cm、奥行き61cmのラックのほうが使い勝手がよく、あとあと都合がいいです。
育苗箱が60cm×30cmに設計されており、このサイズならそれが横に4枚並べられます。
幅121cmのラックだとポール径がφ25mmなので内寸が116cmしかなく、育苗箱が横に3枚しか並びません。
ホームセンターで普通に売っているラックよりだいぶ大きめになります。
なので、店で売っていないことも多く、ネットで送料無料の商品を買うほうが安いし簡単です。
ネットショップでは同一商品が様々な店から異なる値段で大量に出ています。
送料無料で一番安いものを選べばよいと思います。
ただし、あまり安いと在庫を持っておらずメーカー取り寄せになり、納期が遅かったりすることもあります。
棚は追加して増やして5段や6段にすることも可能です。
1段だけ棚の間隔を狭くして(またはLEDの位置を低くして)光を強くすれば、その段だけ育苗部分にすることも可能です。
4段で組んだ場合資材費は5万円以下です。循環させる場合はポンプと配管とタンクでプラス2-3万円くらい。
これを循環させ、ケースで覆って見た目を整えたものが店舗利用型として100万円前後で売られています。
上記のシステムにこれらの加工をして手を加えると、こんな感じになります。
一次機能は同じなのに全く別物に思えます。やはり二次機能(デザインとユーザビリティ)は大事ですね。
ただ、これは製品として販売するための手入れなので、自分で使う分には見た目を整える必要はありません。
多かれ少なかれ、製品を買うと「見た目代」を余分に払ってしまうことになります。
売る側にも体裁があるので仕方ありません。
しかし自分で使うものを自分で使うのであれば、見た目を整えるためのコストを思い切りカットできます。
1ユニットで栽培できる株数
ラック1段あたりの正味の栽培面積は120cm×60cmです。
そこへ何株のレタスを植えるか。株と株の感覚を「定植間隔」と言います。
実は、定植間隔は事業の成否を左右するほどの、経営者の手腕が試される非常に重要な意思決定になります。
15cm間隔なら4株×8株で32株ですが、10cm間隔なら12株×6株で72株になります。
しかし10cm間隔だと隣の株と葉がぶつかってしまい、形がおかしくなったり、接触部分の葉が痛んだりするでしょう。
もうちょっと広げて12cm間隔?その場合は10株×5株=50株になります。
一方、どんな間隔で植えても1日の電気代は同じです。
定植間隔を開ければ株をより大きくできますが、その分栽培期間は長くなります。
大きいほうが高い値段で売りやすいでしょう。
無難なのは15cm間隔です。攻めるなら12cm間隔でしょうか。
15cm間隔なら1段あたり32株。天地4段のラックなら1ユニットで144株です。
1000ユニットで144,000株。
定植後25日で1作する場合は144,000株を25分割するので5,760株/日。生産能力は日産7680株になります。
ただしこれは生産容量なので、ここからロスが出ることになります。
同様の計算をすると12cm間隔では日産9000株になります。ただし、こんなのはあくまで参考値です。
なぜならば…
定植間隔と収穫サイズの設定は経営者の手腕次第
定植間隔と栽培期間をどこまで攻めるか。恐ろしいことに正解はないんです。
「みんなやっているから」と、ちゃんと考えずに「普通の」定植間隔で植えてよくあるサイズで運営を始めたら、たぶん潰れます。
植物工場は失敗する人のほうが多い分野なので、平均的な運営をすると赤字化して潰れてしまいます。
植物工場で黒字化するには「みんな」から抜きん出て、「みんな」よりも優れていないとダメなんです。
最も重要なKPIの一つである定植間隔・収穫サイズを植物工場ベンダーの言われるがままでやっている限り、
おそらく日本の植物工場ビジネスは次の段階には進めないでしょう。
きわめて重要な創意工夫と意思決定の機会が最初から失われているのです。
水耕パネル1枚から何株作れるか(作るか)については、本来は経営者の思想と手腕次第で決められるべきものです。
植物工場は経営者自身が積極的に生産工程と生産技術に介入しないといけません。
その点、植物工場を自作すれば生産工程や生産技術を主体的に手掛けることができるようになります。
本当であれば大規模での栽培を始める前に、1年や2年の時間をかけて定植間隔と出荷サイズの最適化をじっくりやっておかないといけないんです。
期待と思いこみで見切り発車して、こちらの都合でサイズや価格を提示したって売れるわけありません。
そうして最終的に潰れてしまっても、植物工場ベンダーだけの責任とは言えないと思います。
もちろん営業力があって交渉を頑張ればスーパーは買ってくれることもあるんですが、
結局店で売れ残ってしまうので遅かれ早かれ値下げ要求されるか契約を打ち切られるかしてしまいます。
一方、事前に作った野菜の試験販売を事前に重ねていれば値段や売れ行きのリアルな参考データが手に入ります。
どのサイズがいい値段になるか、よく売れるかも把握できます。
実験規模の少量では扱ってもらえないので売れないとお思いでしょうか?
いいえ、いまは簡単にA/Bテストを実践する方法があります。その方法を使えばたとえ生産量が少なくても毎日販売できます。
頭を使えばすぐ気づくはずです。よく考えてみてください(※ネット販売じゃありません。店頭販売です)。
また、植物工場は1年間同一品質ということがメリットとして謳われますが、
サイズコントロールが得意なんだからむしろ季節に応じて出荷サイズを変えたっていいのではないでしょうか。
露地モノを無視せず、むしろ露地モノの品質の季節変化をしっかり意識すれば、植物工場もマーケットインの手法に近づけると思います。
ラック(栽培棚)
大きさは幅151cm×奥61cm×高さ180cmを推奨します。具体的にはこちらです。
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送料込みで一番安いものを掲載しました。
棚板が5枚なので、栽培には4段分使えます(一番上の棚にはLEDをつけられないので)。
栽培棚一段あたりのコストは5920円です。
メタルラックでもいいし、より頑丈で見た目がよいスチールラックでもいいです。
社外の人に見せることがあったり、長期間使うのであればスチールラックのほうが好ましいが少し割高になります。
スチールラックの場合はこちら。耐荷重やサイズを選ばないといけません。
1段あたりの重さはたいしたものではないので明らかにオーバースペックですが、
サイズラインナップの都合上耐荷重300kgのものを使います。
耐荷重300kg、150cm×75cm、高さ210cm、板7枚(=6段分栽培)、単体 の場合、36100円+送料4000円(東京都の場合)です。
1段あたりのコストは6667円です。たくさん使う場合は連結棚にしてまとめて発送すればメタルラックと大差ないコストになると思います。
それぞれのラックのメリットとデメリット
メタルラックは棚板が鉄格子状になっているためLEDをつるすのが簡単です。
ただ、並べて使う場合は高さに誤差が出て調整が面倒です。
スチールラックはLEDをつるす道具をひっかける場所がないため、棚板に穴をあけるなり接着するなり、ひと手間必要になります。
並べて使う場合はスチールラックのほうが扱いやすいです。
液肥タンク兼栽培槽
深めのトレイやプラスチックコンテナ(ばんじゅう)を使います。
エアポンプ+エアチューブ+エアストーン
循環させる代わりにエアポンプで強制抜気して液肥に酸素供給をします。
この規模なら観賞魚用の製品が使えます。
※循環させる場合は循環ポンプ、液肥タンク、配管を揃えますが、この規模で循環させても面倒なだけです。
このラックを10台連結するくらいの規模で栽培するなら循環したほうが楽ですが、小規模ならわざわざ循環させなくてもいいと思います。
LED蛍光灯
一般的な120cm長さの白色LED蛍光灯を使います。1本1000円弱です。
何度もお伝えしていますが、赤色とか青色とか、そんなことは気にしなくていいです。
特殊な光源を使うことでわずかに電気代削減のプラス効果が得られることもありますが、
波長に手を加えた特殊な光源は大量生産されていないため、初期費用が上昇します。
また、赤のみとか青のみの単色光で栽培すると植物の形がおかしくなったり、人間の目に悪く、作業しにくくなるなど、電気代削減効果を上回る様々なデメリットに見舞われます。
研究開発ならともかく、利潤を優先しなければならない事業では最もリーズナブルな白色を使うことをお勧めします。
白色LED蛍光灯ならすでに1本1000円以下で買える大量生産品があるのです。これを使わない手はありません。
最終収穫サイズにもよりますが、葉物栽培だと1段あたりLED蛍光灯4本分の光量が必要です。
ただ、ラックが単体であるため各段両端の光が無駄になることを考慮して念のため1段に5本使います。
4段なら計20本必要です。LED蛍光灯についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
蛍光灯ソケット
ソケットと電線を使えばもっと安くできますが、少量だったら既製品を買ったほうが早いです。
ACコード付きソケットを蛍光灯の本数と同じだけ買います。
電気の素養がある場合は全部1本のACコードにまとめるか、段ごとにACコードにまとめたほうが扱いは楽です。
※まとめる際は電気容量に注意してください。
※電気の話になったので注意喚起をしておきます。
電気は命にかかわる危険なものなので、どんなに扱いに慣れていても決して甘く見てはいけません。
ライフルの銃口を向けられているくらいの気持ちで常に慎重に対峙してください。
一歩間違えば家庭用電力でも即死します。
「はじめに」の文末にも記載しましたが
本サイトの情報を参考にして行った行為によって何か事故や損害があっても筆者は一切責任は負えませんし、負いません。
私はかつて高専の電気工学科にも通っていたことがありますが、
「電気はそもそも危ないのに、目に見えないからさらに危ない。電気で死ぬときはあっけない。」
としつこくしつこく教育されました。当時はうっとうしい思いをしましたが、結局いまでも役に立っています。
プロの電気工事士ですら、よく感電死しています。電気は本当に怖い存在です。
そのうえ植物工場は水を使うのでさらに危険です。電気と水は最悪の組み合わせです。
さらに言うと、液肥は水よりもよく電気を通します。
くれぐれも電気周りの取り扱いにはご注意ください。作業時には絶縁手袋の使用を強く推奨します。
タイマー
LEDの消灯と点灯を自動でやります。最小構成ならアナログタイマーで十分。
ただしアナログタイマーは時間とともにずれていきます。たまに直せば済むことですが。
デジタルタイマーのほうが確実ですが、設定の際に説明書が必要になるのが面倒です。
水耕栽培パネル
パネルメーカーから100枚単位で購入します。
しかし、小規模なら小売品を買ったほうが安上がりです。
単価はまとめ買いする場合に比べて2倍かそれ以上になりますが、支払総額は安く済みます。
発泡スチロールをくりぬいて自作する方法もありますが加工が大変で、値段もたいして安くなりません。
液肥
液肥の記事をご覧ください。
ポリウレタンスポンジシート(培地)
培地は1枚58cm×28cmで300ブロック連結しているポリウレタンスポンジを使います。
十字切れ込みがあると根の侵入がよく、少し早く育つので切れ込みは必須です。
また、くぼみ(くりぬき)があるほうが種を置きやすく、作業効率がよくなりますが、割高になります。
「コート種子」という播種効率の高い加工種子を使う場合はくりぬきが必須です。
くりぬかれていないとシートの上から転がっていってしまうので。
切れ込みのみのタイプのウレタンシートだと、ウレタンメーカーから100枚単位で買えば送料込みでも1枚200円しません。
ヤフオクで買える場合もあります。
くりぬきタイプだと業者や量によっては1枚200円超えることもあると思います。
ネットショップで1枚単位で買うと500円以上することもあると思いますが、ごく小規模ならそれでもいいかもしれません。
最小構成の場合、使う資材はこんな感じです。組み立て方はまた別の記事でご紹介します。
とはいえ、これだけ情報があれば写真を参考にしながら組み立てることも難しくないと思います。
液肥循環について
こちらは以前私が設計した植物工場です。液肥は循環しています。(当時の撮影機器の都合上、画像が荒くてすみません。)
数ラック程度のごく小規模での試験栽培なら循環はいりません。むしろ大変になるのでお勧めしません。
一方、10ラック以上連結するのであれば循環も選択肢になります。循環させる場合はラックとプールをひたすら伸ばしていくだけです。あまり長いと酸素状況が不均一になることがあるため、長さは20メートル程度にしておきましょう。
こちらはプールにスチロールベッドを使っていますが、高くつきます。
屋外では断熱する必要があるので発泡スチロールが最適ですが、屋内は日光が当たらないので必ずしもスチロールベッドは必要ありません。
もっと簡単にやる方法がいろいろあります。
塩ビパイプやツーバイフォー材で枠をくくってやって、その上を防水シートで覆ってやればプールができます。
落水部分をどうすればいいかは水道屋さんに聞けば簡単に作れます。
落水部にはよく物が詰まります。一度詰まると液肥が全部溢れてひさんなことになります。このため、できるだけ径の大きなものを使いましょう。VU40を推奨します。
より簡素でメンテナンスしやすい落水方法もありますが、独自の特殊な方法なのでそちらはコンサルを受けた方にのみ公開しています。

